防衛医科大学校病院 女性泌尿器科
▶過活動膀胱の治療
行動療法や薬物療法、磁気刺激療法、仙骨神経刺激療法、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法があります。通常は行動療法や薬物療法から治療を開始しますが、3か月以上治療を継続しても症状の改善がない、または副作用で治療継続が難しい病態を難治性過活動膀胱といいます。
ボトックス療法(ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法)は、難治性過活動膀胱に対する新しい治療法です。
▶ボトックス療法とは?
副交感神経末端からのアセチルコリンの放出を阻害し、膀胱の異常な収縮を抑制します。
膀胱内視鏡を膀胱内に挿入し膀胱の筋肉に薬液(ボトックス)を注射します。
注射は、膀胱内の約 20 箇所に実施します。
▶ボトックス療法の適応
現在の内服治療で症状の改善効果が不十分、または治療の副作用で治療が継続出来ない方(難治性過活動膀胱を有する方)が対象です。
例えば、
3か月以上、内服薬を服用したが尿失禁が改善されない。
2週間以上、内服薬を服用したが副作用があり継続できない。
このような方は、ボトックス療法が有効で症状が緩和される可能性があります。
ボトックス治療を行うには、残尿量100 mL 以下であることが必要です。
高齢の方には、ボトックス治療後の尿閉(排尿したくても出来ない状況)のリスクを予測するため尿流量・残尿測定検査を行うことをお勧めします。
治療適応に関しては、担当医とよく相談して下さい。
▶ボトックス療法の特徴
ボトックスの有効成分はボツリヌス菌によって産生される A 型ボツリヌス毒素です。
当科ではボトックス療法を入院で実施しています。
1回のボトックス療法には効果持続期間があり約4~8か月とされています。
それ以降経過すると効果が弱まって行きますので、年に 2 回程度ボトックス注射を行うと効果が維持されることになります。
繰り返し注射を行うことで中和抗体が産生されて効果を得にくくなることがあります。
その他の注意事項として、女性は投与後 2 回目の月経を経るまで、男性は投与後 3か月以上経過するまでは避妊が必要になります。
▶ボトックス療法の流れ
1.外来での術前検査、治療の説明と同意:
入院前の外来で採血、尿検査や残尿量測定等必要な検査を行います。
適応ありと判断されればボトックス療法について説明を行い入院、手術日を決定します。
2.注射当日:
手術室で麻酔をかけた後、内視鏡を膀胱内に挿入し、細い注射針を用い膀胱の筋層内に調整されたボトックス注射液0.5 mLずつ約 20箇所に注入します。
注射は約15〜20 分で終了します。
血尿の程度、膀胱壁の状態を確認後、尿道カテーテルを留置して終了します。
翌日まで経過観察とし尿色調、排尿状態を確認した後、退院して頂きます。
3.治療後の診察:
注射から数週間後に外来で残尿測定等を行います。
問題がなければ、その後は外来を定期受診して頂き、経過をフォローします。
▶ボトックス療法の効果
治療効果は、通常注射後 2 日目頃から現れます。
日本での臨床試験結果では注射後 2 週目において尿失禁回数は平均3.24回減少し、完全に尿失禁が消失した方の割合は約 20%、以前の回数から半分に減少した方の割合は約 60%でした。
また、尿意切迫感の回数は6 週目で平均 3.32 回の減少が見られました。
排尿回数においても6週目に平均1.78回減少し、難治性過活動膀胱に対する有効性が期待出来る治療法であることが示されています。
▶偶発症・合併症
頻度は国内臨床試験に基づいています。
・肉眼的血尿(約2%)
膀胱壁に針を注射することで、一時的に血尿を来たすことがあります。
血尿が著明な場合には内視鏡的に止血する必要があります(極めて稀です)。
・尿路感染症(約5%)
尿道口から膀胱内に細菌が侵入すると膀胱炎、前立腺炎、腎盂腎炎が生じることがあります。尿路感染により混濁尿、頻尿、排尿時痛、発熱、悪寒、血尿等の症状が出現することがあります。
・排尿困難、残尿量増加、尿閉(5~9%)
排尿困難発生率は9%、尿閉は5%(前立腺肥大症を有する男性に多い)です。
尿閉とは尿を自分で全部出し切れず、膀胱内に尿が溜まってしまう副作用です。
投与後は残尿量を定期的に測定致します。
残尿量が増加した場合、改善するまで自己導尿(自身で尿道カテーテルを挿入し、尿を排出させる手技)を行って頂く可能性があります。
・薬によるアレルギー反応(1%以下)
アレルギーが出現した場合、嘔気、蕁麻疹、発疹、気分不快等の副作用が出現することがあります。
重篤な場合は、喘息発作やアナフィラキシーショック(血圧低下)に至る場合があり、適切に対処致します。
ボトックス療法後に上記偶発症・合併症を含め、何らかの症状が出現した場合は、昼夜問わず病院代表(電話: 04-2995-1511)までご連絡下さい。
また偶発症・合併症発生時の医療費は保険診療の範囲内で対応します。